香港・マカオ News
2017年度の施政報告 社会保障政策で物議
梁振英・行政長官は1月18日、任期中5回目で最後となる2017年度施政報告(施政方針演説)を立法会で発表した。「チャンスを生かし、経済発展、民生改善、調和を図る」と題し、経済発展、「一帯一路」、イノベーション・科学技術、住宅・土地、環境保護、交通・運輸、高齢者・弱者支援、リタイア後の生活保障・人口政策などに関する政策を柱としている。リタイア後の生活保障に関する問題で強制積立年金(MPF)オフセッティングの段階的撤廃を宣言し、市民皆年金制度の推進は否定したことなどが物議を醸している。
経済面では第13次5カ年計画(16~20年)と「一帯一路」戦略によって香港にもたらされる金融サービス、専門サービス、イノベーション・科学技術などの分野での商機に言及。金融発展局が提案する金融市場と金融サービス業に関する税制、法規、人材開発などを積極的に検討し、実行可能な措置を講じるほか、香港貿易発展局(HKTDC)を通じて金融サービス業の対外プロモーションを強化する。海外の経済貿易代表部をインド、メキシコ、ロシア、南アフリカ、UAEに新設するほか、中国本土では今年半ばまでに特区政府連絡事務所を4カ所に新設。これにより本土の連絡事務所は11カ所に拡大する。香港が「スーパーコネクター」としての役割を果たすため、「一帯一路」沿線の国々についてビザ条件の緩和を検討する。
市民の関心の高い住宅問題では、短中長期的な住宅・土地供給措置を明らかにした。17/18年度からの10年間の住宅供給目標は46万戸で、うち20万戸は賃貸型公共住宅、8万戸は政府が購入を支援する物件となる。今後3~4年の民間デベロッパー開発物件の供給量は9万4000戸と予測され、今期政府が就任した当初に比べ45%増えた。定期的な予測発表を始めた過去12年間で最も多い。香港房屋委員会が供給する賃貸型公共住宅は16/17年度からの5年間で約9万4500戸。土地用途の変更や開発密度引き上げで短期的には210カ所余りの用地を確保し、38万戸の住宅供給が可能。中長期的には新たな開発区とニュータウン拡張計画で約22万戸を供給できる。ランタオ島開発の青写真も上半期に発表する予定だ。
高齢化対策やリタイア後の生活保障、労働問題ではいくつかの重要な措置が打ち出された。特に物議を醸しているのがMPFの積立金を退職金・解雇手当に充てるオフセッティングの段階的撤廃。政府はオフセッティング撤廃に向けて雇用主が退職金・解雇手当を支払うための補助金として60億ドルを確保し、10年を過渡期として段階的に補助金を減らす。だが財界はオフセッティング撤廃で人件費が5~6%増加するとして反対を表明している。高齢化対策では高額高齢者生活補助を増設。対象者の資産上限は単身14万4000ドル、夫妻21万8000ドル、支給額は13年に施行された長者生活津貼(高齢者生活補助)より約30%多い1人当たり月3435ドルとする。高齢者生活補助は資産上限を単身32万9000ドル、夫妻49万9000ドルに引き上げる。高齢者医療バウチャーの受給年齢は65歳に引き下げ、75歳以上の高齢者生活補助受給者に対しては公立病院・診療所の費用無償化を進める。一方で貧富を問わないリタイア後の保障である市民皆年金制度の導入は否定する姿勢が示され、一部で反発の声が上がっている。
市民皆年金制度は推進せず
香港大学民意研究計画と香港社会服務連会は20日、施政報告に対する世論調査の結果を発表した。調査は18日に528人を対象に行われた。施政報告に対する全体的な評価は52.3点(100点満点)で、昨年の41.1点から11ポイント上昇。及第点を回復した(ただしその後の調査では下落)。
低所得層支援措置については昨年の41.7点から51.2点に上昇。だが45%は低所得層の生活改善への効果は小さいとみており、効果が大きいとみているのは17%に過ぎなかった。
施政報告では、家族と別居の高齢者が生活保護を申請する際、家族の経済援助声明を提出する規定を撤廃した。これにより家族と不仲だったり家族に遠慮する高齢者の申請を容易にし、2月1日に前倒しで開始された。ただし申請可能な年齢が60歳から65歳に引き上げられたことについては52%が反対した。また「貧富を問わない皆年金制度」は推進しないことについては40%が支持、48%が資産審査方式に反対と答えた。
施政報告発表に先駆けた12日、林鄭月娥・政務長官が辞任を発表した。今回の施政報告にはリタイア後の生活保障など林鄭氏が主管していた政策措置が数多く盛り込まれたが、施政報告に関する仕事が一段落したのを機に辞任し次期行政長官選挙への立候補に向けた準備を始めた。林鄭氏は、梁長官が推進してきた住宅供給拡大や福祉拡充などの民生改善の施政理念を引き継ぐために行政長官選への出馬を決めたと表明している。これらは長期的な政策が必要であるため、その成果の行方は次期行政長官に握られているともいえる。
施政報告の主な内容
(1)経済
・中国本土でのさらなる投資、経済・技術協力の範囲を模索するためCEPAを拡大・改善
・広東省政府と協力し「南沙粤港深度合作区」で香港が発展のチャンスをつかめるようにする
・今年半ばまでにAIIBへの加盟手続きを完了
(2)「一帯一路」
・2億ドルの専門サービス支援計画を通じて専門サービス業の海外進出を支援
・9月にHKTDCと「一帯一路」サミット開催
・「一帯一路」沿線諸国の国民の就労、就学、観光ビザの条件緩和を検討
(3)イノベーション・科学技術
・深セン市政府と協力し落馬洲河川敷に「港深創新及科技園」を建設
・将軍澳にデータセンターと先進製造業センターを建設し再工業化を推進
・香港科技園周辺に「創新闘室」を建設し、インキュベーターやスタートアップ企業の職員に住居と作業場所を提供
(4)住宅・土地
・今後5年で賃貸型公共住宅9万4500戸を供給
・民間による今後3~4年の住宅供給量は9万4000戸
・短中期的な用地確保で38万戸の住宅を供給
・ランタオ島開発の青写真を上半期に発表
・「香港2030+」の計画検討と一般市民の参画推進
(5)高齢者・弱者支援・リタイア後の保障
・広東省の施設への入居サービス試験計画を3年延長、「福建計画」を推進
・強制積立年金(MPF)オフセッティングの段階的撤廃
・MPF予備ポートフォリオ投資戦略を4月に発表
・高齢者生活補助を改善。受給者は公立病院の費用免除
(5)教育・スポーツ・文化
・中国の歴史と伝統文化の教育支援に1億2500万ドル拠出
・湾仔運動場を総合開発し、展示会、レクリエーション、コミュニティー施設を建設
・西九龍文化区に香港故宮文化博物館を建設
(2017年2月10日『香港ポスト』)