香港・マカオ News

2017.04.30 / 

次期行政長官の最初の任務 社会の亀裂修復へ

李克強・首相から国務院令を受け取る林鄭月娥氏(写真:政府新聞処)

 林鄭月娥・次期行政長官は4月11日、北京で李克強・首相から国務院令を受け取り、正式に第5期行政長官に任命された。同日午後に習近平・国家主席と接見し、社会・経済問題の解決に重点を置き、政治体制改革は棚上げする方針が示されたもようだ。林鄭氏は就任前に各党派との会談を進め、民主派メンバーを政権に招き入れる意向もあるが、社会の亀裂修復は容易ではなさそうだ。

 習主席は林鄭氏を「愛国愛港の立場は堅く、実務に勤勉、責任を負える」「行政経験が豊富で、複雑な局面を乗り切る能力がある」「香港社会での支持は一貫して高い」と評価。さらに「近年、香港は長期的に累積してきた矛盾と問題が徐々に顕在化し、現段階で試練とリスクがあるが、チャンスと希望にも満ちている」と語った。

 習主席と李首相はともに従来と異なり「民主推進」に言及しなかったことから、林鄭氏に政治体制改革のやり直しは求めないとみられる。全国香港マカオ研究会の劉兆佳・副会長は「中央は林鄭氏に社会・経済問題の解決に重点を置くことを求めている」と指摘。政治的矛盾は短期的には処理が難しく、まず経済問題を解決し、社会と政治の矛盾を徐々に緩和することを望んでいると分析した。

 香港大学民意研究計画は行政長官選挙が終了した後の3月27~30日、1002人を対象に林鄭氏の支持度に関する世論調査を行った。100点満点の支持度は55.6点で、梁振英・行政長官が2012年に当選した際の51.5点を上回った。前任者と比較した場合については「良い」が55%、「同じ」が24%、「悪い」が11%となっており、梁長官がそれぞれ47%、19%、20%だったのに比べると良好な評価といえる。香港中文大学の蔡子強・高級講師は、梁長官は当選後の最初の日曜日に約5000人のデモが行われたが、林鄭氏の当選後に大規模な政治動員は出現していないことを挙げ「林鄭氏に対する市民の敵対レベルは梁長官より低いことが表れている。林鄭氏はこの時期を利用して支持が得られることを多くやるべき」と述べた。

 林鄭氏は3月27日、立法会の梁君彦・議長と会談した後の記者会見で「7月1日の就任前に機構改革は提示しない」と明言した。林鄭氏は政権公約(マニフェスト)で「文化局」「旅遊局」を新設、住宅供給をスムーズにするために「運輸及房屋局」を分離し「土地及房屋局」に改編するなどの機構改革を盛り込んでいる。前2期の行政長官はいずれも就任前に機構改革を提示し、高官ポストや財政の手配にかかわるため立法会財務委員会の承認を必要とした。

 だが林鄭氏は梁議長に就任前は機構改案を出さないと伝えたことを明らかにし、「行政と立法の関係が依然緊張している中で機構改革案を出せば争議が増え、立法会での他の承認作業が遅延する懸念がある」と説明した。梁長官が就任する前、立法会に機構改革案が提出されたが民主派による議事妨害で棚上げされた。その後一部は実現したものの、「運輸及房屋局」から「房屋及地政規画局」への改編は行われないままとなっていた。

 林鄭氏は当選後の記者会見で「社会の亀裂修復と閉塞状況からの脱却が最初の任務」と述べ、ただちに次期行政長官の身分で立法会の各党派の議員とそれぞれ会談すると表明。民主党、公民党、専業議政は4月7日、次期行政長官弁公室から会談の招きを受けたことを明らかにした。一方で過激な民主派、自決派、本土派の議員5人は当初招きを受けていないことが分かった。非親政府派を分断する狙いとの指摘も上がったが、次期行政長官弁公室は引き続き招待状を発送することを明らかにした。親政府派では自由党などがまず招きを受け、同党の鍾国斌・代表は政府に参加させる党員を林鄭氏に推薦することを明らかにし、行政会議メンバーも務めている張宇人・主席を教育局局長候補に挙げた。

民主派メンバーの入閣に壁

 中央政府は昨年11月、「一部立法会議員とその他の者に対し実施している中国本土への入境規制を緩和する」と特区政府に通達した。「港澳居民来往内地通行証」(通称「回郷証」。香港マカオ市民の本土での身分証)を没収された民主派関係者らに再申請を認めるもので、香港社会の亀裂修復に向けた支援措置といえる。

 立法会発展事務委員会の視察団が4月14日、広東省東江流域に赴いた。参加した議員は18人で、うち6人は非親政府派。これに合わせて社会民主連線の梁国雄氏は臨時回郷証を取得したが、以前の例から無事入境できるかが注目された。一行が皇崗から入境する際、梁氏は出入境管理所職員から上着に付けていた黄色いリボンと「われわれは労働者であり、奴隷ではない」と英語で書かれた襟章を外すよう言われたが拒否。だが最終的にはそのままで入境を認められた。10年ぶりに本土入境を果たした梁氏は中央の善意が反映されているかと聞かれ、「自分は中国人として中国本土に入境する権利がある」と述べた。

 林鄭氏の組閣メンバー候補とみられる民主党の羅致光氏も3月に「回郷証」を取得。羅氏はすでに本土に2回赴き、香港深セン大学医院での覚書調印や広州市での高齢者サービス展示会の見学などを行った。羅氏は04年に回郷証を没収されたが、14年の深セン市での政治体制改革座談会など2度にわたり臨時回郷証で本土に赴いている。林鄭氏は扶貧委員会の関愛基金専責小組主席を務める羅氏の入閣を望んでいるものの、民主党は「普通選挙が実現されない限り党員が政府官僚を務めることは認めない」と説明。党員が政府に参加する場合は離党すべきかどうかも正式に討議されないままだが、梁政権に参加した張炳良氏は民主党を離党した。

 民主党の胡志偉・主席は4月18日付『明報』で、林鄭氏が社会の亀裂修復を最初の任務に掲げていることを踏まえ「セントラル占拠行動」をめぐり違法行為を犯した関係者らへの特赦を提案した。林鄭氏の就任後、独立調査委員会を設置して占拠行動発生の原因を詳細に検討するとともに、基本法48条を運用して占拠行動のすべての参加者、リンチ事件を起こした警官7人、暴力行為がみられた退職警官の朱経緯氏に特赦を与える和解案を提唱した。

 だが和解案が報じられると各方面から批判が上がった。民主党の許智峯氏が「特赦は法治の理念に反する」との声明を発表したほか、香港衆志の羅冠聡・主席は「政治体制改革が完了する前に和解を要求し、政権との休戦を提示するのは無責任」、民主建港協進連盟の李慧瓊・主席も「セントラル占拠後、社会では過激な思想や違法な抗争が続いており、特赦は過激・違法手段によって政治目的を達成するのを政府が認めたと思わせる」との懸念を示した。胡主席は18日の党内緊急会議を経て記者会見で発言を撤回し謝罪。亀裂修復の難しさを物語っている。(2017年4月28日『香港ポスト』)

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