香港・マカオ News

2016.01.05 / 

2015年 香港10大ニュース

 2015年は行政長官の普通選挙を実現するための政治体制改革案が立法会で否決されたことや区議会議員選挙が行われるなど、前年の「セントラル占拠行動」の影響が続く政治情勢が注目を浴びた。ほかには第13次5カ年計画や「一帯一路」戦略など今後の香港の発展にかかわる話題も取りざたされた。昨年の主なニュースを振り返る。

1)立法会、普通選挙案を否決 主流民意は可決を支持

 立法会は6月18日、特区政府が提出した行政長官選出方法改正に関する議案を否決した。2014年に「セントラル占拠行動」をもたらした17年の普通選挙問題だが、少なくとも22年まで実現は先送りとなった。採決では親政府派議員の多くが不手際により退席したため、反対28票、賛成8票で否決。だがそんな失態がなくとも政府は民主派の切り崩しに失敗し、否決は確定していた。世論の多数が可決を望んだものの、民主派議員らは急進・過激派勢力に縛られる形で否決権を行使した。

 自由党の田北俊・名誉主席が香港大学民意研究計画に委託した大規模な世論調査では、改革案可決について「支持」が51%、「反対」が37%。香港大を含む3大学合同調査では改革案への「支持」が47%、「反対」が38%。団結香港基金会が中文大学に委託した調査では「可決すべき」が49.4%、「否決すべき」が39.5%などとなっており、主流民意は可決を支持していた。だが民主派は世論を転換すべく改革案が「偽の普通選挙」であり、「今回可決したら永久に改正できない」と主張。国務院香港マカオ弁公室の王光亜・主任が「わい曲とミスリード」と批判した。
 香港中文大学が否決を受けて行った世論調査で、「政治体制改革が失敗した責任は誰にあるか」に対する回答は民主派が30.9%、中央政府が24.2%、特区政府が20.9%だった。

2)区議会選、投票率は過去最高 占拠行動の影響で積極投票

 地方議会に当たる区議会議員選挙が11月22日に投開票された。2014年の「セントラル占拠行動」の影響を受けて投票率は前回(11年)より約6ポイント上昇の47%、約147万人が投票し、ともに過去最高。ただし親政府派が圧倒的多数を占める基本的な勢力図に変化は見られず、投票率が高まれば民主派に有利との定説は崩れ、立法会議員も務める現職議員の落選や占拠参加者の当選など、さまざまな面で意外な結果となった。

 431選挙区のうち68選挙区で候補者が1人しかいなくて無投票当選となるため、残り363議席を867人で争った。無投票当選も含めた獲得議席は親政府派が約298(前回比13減)、民主派が約106(同14増)。得票数でみると親政府派は同10万票増の約78万票、民主派は同3万票増の約47万票だった。

 選挙ムードは盛り上がりを欠いていたにもかかわらず投票率は過去最高。香港中文大学の馬嶽・副教授は「占拠行動に反感を持つ多くの人たちが投票し、また若者も過去1、2年の政治環境の変化に刺激を受けて投票した」と分析する。

 占拠行動が終わってから初めて香港全域で行われる選挙だったため、占拠に対する市民の態度を計る機会として注視された。民主派候補18人が占拠行動への関与で逮捕されたが、これら候補はいずれも占拠行動への立場に触れていなかった。従来政党に属さない占拠参加者は50人余り出馬し8人当選したが、当選者はいずれも選挙活動で占拠行動に触れるのを避けていた。一方、占拠行動を前面に出した過激派3党は1人も当選せず、セントラル占拠発起人らが支援した候補などはいずれも落選した。

3)第13次5カ年計画の草案採択 「一帯一路」戦略に活路

 中国共産党第18期中央委員会第5回全体会議(五中全会)が10月29日に閉幕し、第13次5カ年計画(2016~20年)の草案が採択された。香港にかかわる部分では初めて「国家における香港の地位・機能の向上」に言及し注目されたほか、「香港の国際金融センター、海運センター、貿易センターとしての地位を強固にし、国家の双方向開放、『一帯一路』建設への参入を支援。人民元オフショア業務のハブとしての地位強化、資金調達、貿易、物流、専門サービスなど高付加価値方向への発展推進を支援する」などが盛り込まれた。

 梁振英・行政長官ら特区政府高官はフォーラムなどで頻繁に「一帯一路」戦略への呼応を呼び掛けている。梁長官は基本的な構想として4大支柱産業などを生かして「一帯一路」で(1)資金調達・資産運用(2)貿易・物流促進(3)高付加価値・専門サービス(4)多角的観光(5)新興産業――の5つのプラットホームの役割を担う考えを示し、人民元オフショア市場、鉄道・空港・港湾・発電所などのインフラ施設の運営・管理、検査・計測・認証、クリエーティブ産業などが強みになると説明した。

4)深セン市民の数次ビザを制限 並行輸入に抗議で旅行者排斥

 国務院公安部出入境管理局は4月13日、並行輸入活動で問題となっている深セン市の戸籍住民に認められた数次ビザの制限を発表した。

 年に何度でも来港できる数次ビザの発給は同日から停止し、1週間に1度だけ来港できるビザに変更された。ただし政策変更は過去に発給されたビザには影響しないため、効果が表れるには一定の時間を要する。特区政府は2016年6月に数次ビザ見直しを中央に提言。同年の統計では1週間に2回以上来港した人は459万人で、中国本土からの来港者の10%に当たる。

 14年の「セントラル占拠行動」に参加していた民主派団体の熱血公民などは15年に入ってから各地でデモを展開。ショッピングモールの宝飾品店、薬局、雑貨店などで買い物客に「本土へ帰れ」などとののしり、バス乗り場で旅客の荷物をけとばすなどで流血の衝突も発生し、2月から3月半ばまでに計69人が逮捕された。逮捕者からは可燃性の液体やナイフなど武器も押収。さらにデモ隊は英国植民地旗を掲げて「香港独立」や「香港建国」を叫ぶなど、背後に排他主義勢力の存在が指摘されている。本土からの観光客による消費減少が顕著となっている折、デモが追い打ちをかけているとの批判も上がった。

5)観光・小売市場が低迷 店舗賃貸料に引き下げ圧力

 セントラルにある「COACH」旗艦店が8月末に閉店した。消費低迷を受けて賃貸料を賄えない店舗が次々と閉店し、その影響は高級ブランドにも及んだ。中国本土からの旅行者減少で小売業は減速し、高騰していた繁華街の店舗賃貸料に下落傾向が表れ始めた。

 腐敗撲滅キャンペーン、為替動向、香港での旅行者排斥などの影響で本土からの旅行者は減少。10月の来港者数は前年同月比2.7%減で、5カ月連続の減少。うち中国本土からの旅行者は同4.2%減。UBSはリポートで「香港の観光業の先行きは09年の金融危機、03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行時より悪化している」と指摘し、失業率は現在の3.3%から4.5%にまで上昇すると予測。すでに9~11月には飲食業で4.2%、宿泊サービス業で4.3%に達した。

 10月の小売業総売上高は同3%減で8カ月連続の減少。化粧品販売の莎莎の上半期(9月期)決算は前年同期比55%の減益、宝飾品の周大福も同期は同42%の減益だった。周大福は14年下半期から来店者が急減したため15年は新店舗を開設せず約10店舗閉鎖した。

6)住宅相場が下落に転じる 抑制策と利上げで取引減少

 特区政府差餉物業估価署が発表した10月の住宅価格指数は約1年半ぶりに下落に転じた。住宅市場では政府の過熱抑制策や米国の利上げ観測から取引は減少し、新築物件の供給増加によって住宅相場はついに天井を打った。
 10月の住宅価格指数は302.6(速報値)で、9月の306.0から1.1%下落。昨年4月から18カ月連続の上昇に歯止めがかかった。美聯物業の統計では2010年11月に不動産の短期転売にかかる印紙税措置が施行された後、中古住宅物件の取引登録は顕著に減少。10年12月~11年11月の登録件数は前年同期比約34%減の8万1200件となり、さらに翌年には7万100件にまで落ち込んだ。過去3年は年平均5万件以下となっている。

 各金融機関による16年の住宅相場の予測は、ドイツ銀行が33~40%下落、大和証券が30~40%下落、UBSが10%余り下落、モルガンスタンレーが5%下落、CLSAが今後27カ月で17%下落など。利上げや新築物件の供給増加などで住宅価格は下落傾向が続く見込みで、地場消費力への影響も懸念されている。

7)高速鉄道、予算を30%超過 港珠澳大橋も開通先送りへ

 特区政府と香港鉄路有限公司(MTRC)は11月末、広州―香港間高速鉄道の香港区間の工事状況について記者会見を行い、建設コストの最新見積もりは844億2000万ドルと発表した。6月に見積もった853億ドルより少ないが、立法会に申請した予算650億ドルから約30%の超過となり、政府は196億ドルを追加予算として申請しなければならない。MTRCはこれを上限として、さらに超過した場合は同社が負担することを承諾。2017年末の完成・開通は不可能となり、完成目標は18年第3四半期に修正した。

 また特区政府路政署は11月末、香港、珠海市、マカオを結ぶ港珠澳大橋はプロジェクト承認時に16年末の完成を目標としていたが、香港側の税関・出入境管理所とアクセス道路は予定通りの完成は不可能であることを明らかにした。初歩的観測として17年末。9月には税関・出入境管理所を設置する人工島が最大6~7メートル移動していることが明らかになるなど、工期延長や予算超過が注視されていた。

8)水道水から鉛が検出 配管工事で部品の材質に問題

 7月に公共団地の水道水から基準値を超える鉛が検出され社会に不安が広がった。4~6月の民主党による独自調査で明らかになったものだが、特区政府は独立調査委員会を設置し原因を究明。水質汚染の原因は配管工事の際に使われた材質によるものとみられ、政府は部品を交換すると発表した。健康被害の可能性がある住民の血液検査を行ったところ、数十人の鉛含有量が基準値を超えていることが分かった。団地のほか小学校や幼稚園の水道水でも基準超えが見つかり、政府は浄水器の設置を決めた。11月には公共団地の水道工事を請け負った業者4社が2000万ドルを捻出し、2016年1月1日から水道料金の補助を行うと発表。11団地の住民3万戸および住民2万9000世帯と約300戸の非住宅用途の利用者が対象で、金額は1世帯660ドル、期限は3年となっている。

9)ATVの放映ライセンスはく奪 中国文化伝媒が出資

 特区政府商務及経済発展局は4月1日、亜洲電視(ATV)の無料テレビ(地上波)の放映ライセンスについて継続を認めないと発表した。これによってATVの放映可能期間は2016年4月1日までとなり、閉局が濃厚。かねて経営が悪化していたATVは14年末から職員の給与未払いが続いたほか、通訊事務管理局に納めるライセンス料1000万ドルの滞納も問題になっていた。投資者を捜していたATVに9月になって救世主が出現。ATVの大株主・黄炳均氏は持ち株52%を売却し、うち42%を中国文化伝媒国際控股が購入。新取締役会は100億ドルでファンドを設立、少なくとも51億ドルを投資し無料テレビライセンスを再度申請する計画という。しかし12月には再度給与支給の遅延が起き、葉家宝氏が執行董事を辞任した。

10)創新及科技局を新設 3年がかりで実現

 特区政府は11月20日、イノベーションや科学技術産業などを推進する創新及科技局を新たに設置した。同局の設置はもともと2012年の梁振英・行政長官の就任時に頓挫した政府機構改革に含まれ、14年の施政報告(施政方針演説)にあらためて盛り込んだもの。一部の民主派議員による議事妨害で新設が阻まれていたが、約3年を経てようやく実現にこぎ着けた。

 立法会は6月3日に創新及科技局を新設する決議案を可決。民主派では情報技術界選出の莫乃光・議員らが賛成に回った。続いて立法会財務委員会で11月6日、予算申請が可決し、20日の正式設置が決まった。行政会議メンバーで創新及科技顧問の楊偉雄氏が局長に就任、同局の下には商務及経済発展局から創新科技署と政府資訊科技総監弁公室が移管され、香港生産力促進局や香港科学園、数碼港も同局の管轄となった。(2016年1月1日『香港ポスト』

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