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2017.04.07 / 

第5期行政長官選挙 林鄭月娥氏が当選

第5期行政長官に決まった林鄭月娥(キャリー・ラム)前政務長官(写真:『香港ポスト』)

 第5期行政長官選挙の投開票が3月26日に行われ、林鄭月娥(キャリー・ラム)前政務長官が当選した。7月1日から行政長官に就任、任期は5年、香港初の女性の行政長官となる。林鄭氏は注目されていた財界票の流出による影響を免れ、分裂していた親政府派を団結させた。社会の亀裂修復を最初の課題に掲げたものの、依然として民主派などとの敵対が懸念される。

 今回の行政長官選は選挙委員1194人で行われた。正式候補となるには選挙委員の推薦票150票以上が必要で、曽俊華(ジョン・ツァン)前財政長官が165票、胡国興・元裁判官が180票、林鄭氏が580票だった。投票(無記名)では曽氏が365票、林鄭氏が777票、胡氏が21票となり、林鄭氏が当選に必要な過半数(601票以上)を獲得。推薦票に約200票上積みされ、前回選挙での梁振英・行政長官の689票を上回った。林鄭氏を推薦した財界の選挙委員が投票時にどれだけ曽氏に流れるかが焦点だったが、親政府派消息筋は林鄭氏の得票数が予想以上だったことを明らかにした。

 予想では林鄭氏は労働界などの票田で保留されていた160~190票が推薦票に加わるが、投票時に40~50票が曽氏に流れ得票数は最高でも770票とみられていたが、結果はさらに7票多かった。流出票が皆無だっただけでなく、曽氏の支持票がいくらか林鄭氏に流れたことを示している。実際に曽氏を推薦した合和実業の胡文新・社長らが林鄭氏に投票すると表明していた。全国香港マカオ研究会の劉兆佳・副会長は「前回選挙では梁振英陣営と唐英年陣営の競争で親政府派が分裂した。今回、林鄭氏は曽氏と民主派による挑戦に直面したものの親政府派の2大陣営を団結させた」と述べた。

 一方、曽氏の得票は大部分が民主派で、親政府派は約50票とみられる。曽氏は財政長官在任中にデベロッパーなど多くの財界人と仕事上で関係したことを挙げ「彼らは私を支持する」と自信を見せていた。曽氏陣営では非親政府派票の約350票に前回選挙での唐英年氏の得票285票が加わり当選できると見込んでいた。特に政財界では長和実業の李嘉誠・会長が曽氏への支持に傾いているとのうわさが流れていたためだ。選挙委員のうち李氏の影響が及ぶ票数は50~100票で、主に唐氏の支持票に多い。だが李氏の長男の李沢鉅氏は全国政協委員としての一致投票で林鄭氏に投じると明言。次男の李沢楷氏も林鄭氏支持を表明。さらに李会長は3月22日、名指しを避けながら「国家との意思疎通と協力関係が良好で、中央が信任する候補に投票する」と述べ、中国の神話にある女神にたとえ林鄭氏への支持を示唆した。

 民主建港協進連盟(民建連)の葉国謙氏は「前回選挙での唐氏と梁氏の争いの後4年余りも親政府派が内部分裂を引きずった教訓から、中央は早期に林鄭氏への支持を表明した」との見方を示した。さらに曽氏は行政長官の4大条件の1つである中央の信任を得られないとのシグナルによって林鄭氏の圧勝がもたらされたといえる。

 全国政協外事委員会の盧文端・副主任は3月24日付『星島日報』に寄稿し、中央が曽氏を信任・支持しない理由について権威筋が明らかにした内情を紹介した。主な理由は(1)曽氏は「セントラル占拠行動」などの根本的問題で原則を述べずに身をかわし、民主派や過激勢力に迎合。仕事ぶりは怠惰で、政策では低所得層や弱者を顧みない(2)曽氏が中央に出馬の意向を伝えた際、中央は明確に支持しない態度を示したほか、多くのルートを通じて大義をさとしたが、最終的に出馬を選択した(3)曽氏は親政府派候補を自称しているが、主流民主派から代理人に選定され、前提なしの政治体制改革やり直しを承諾させられた。出馬に米国側の人物が協力していることは公然の秘密で、外部勢力の代理人ともなっている――の3点である。

社会の亀裂修復が課題

 今回の選挙では白票を含む無効票が23票、棄権した選挙委員が8人。民主党と公民党が事前に曽氏への投票を表明し、非親政府派の選挙委員は一致して曽氏へ投票するよう呼び掛けたが、過激な民主派や自決派の立法会議員は足並みをそろえなかった。白票か棄権を表明したのは社会民主連線の梁国雄氏、人民力量の陳志全氏、香港衆志の羅冠聡氏、朱凱廸氏ら。いずれも民主の原則堅持を強調し、選挙委員が行政長官を選ぶ「内輪の選挙」は支持しないと述べるなど、原則派と策略派に分裂した。梁国雄氏は民主派が曽氏を支持することに反発して自らの出馬も試みたが、選挙後に「中央は曽氏を支持しているかと思った」として形勢を見誤ったと弁明した。

 曽氏は当初、政治体制改革について「全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会による決定を基礎とする」と述べていたが、民主党との会談後のインタビューでは全人代常務委の決定を逸脱する提案も認める姿勢を示した。だがそれを政権公約(マニフェスト)に盛り込むことは拒否し、基本法23条の立法推進を強調するなど、原則派には受け入れがたかった。

 民主派選挙委員による「民主300+」は3月20日、行政長官選での投票の立場を討議した。民主300+は専門業界の選挙委員298人と「専業議政」の立法会議員7人の計305票を擁する。すでに態度を表明したグループは98%が曽氏に投票すると発表。民主党も同日、立法会議員の7票は曽氏に投じるほか、他の23票も曽に投じるよう推薦すると発表。先に胡国興氏を推薦した公民党も15日、同党が擁する25票はすべて曽氏に投じると発表。同党は声明で「胡氏のマニフェストと価値観は公民党が最も受け入れられる」と述べながらも、世論調査などの要素に基づき曽氏に投票すると決定したという。胡氏は『りんご日報』の黎智英・元社長から攻撃されていたため予想していたものの、民主300+の投票の意向に失望を表明、「民主派じゃなく策略派に改称すべき」と批判した。

 米国の中国問題に関する連邦議会・行政府委員会(CECC)の共同主席を務める共和党議員のマルコ・ルビオ氏とクリストファー・スミス氏は3月28日、行政長官選への中央政府の干渉を非難する声明を発表した。声明では「北京が今回の行政長官選に干渉したことは香港が長期にわたって自主権を萎縮させてきた顕著な例」と述べ、米国は香港に与えている法的に特殊な地位を再検討しなければならないと警告した。これに対し民建連の議員らは「干渉というなら今回の選挙の過程で米英勢力がメディアと組織を通じて干渉していることが顕著に示されている」「米国のある勢力が支援する黎智英氏は香港の多くの選挙に公然と干渉している」と指摘した。

 林鄭氏は当選後の記者会見で「社会の亀裂修復と閉塞状況からの脱却が最初の任務」と表明。貧困対策などで協力関係のある民主派メンバーを政権に招き入れることも検討しているが、民主派内の圧力で実現は難しいもようだ。(2017年4月7日『香港ポスト』)

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