香港・マカオ News

2017.11.03 / 

中国共産党大会が閉幕 対香港政策の行方

政府は香港市民に対する基本法の宣伝イベントも行っている

 10月18~24日に開催された中国共産党第19回全国代表大会(十九大)の初日に習近平・総書記(国家主席)が発表した報告では、香港について中央の全面統治権が強調された。民主派などは中央の対香港政策が引き締められるとの見方を示しているが……。

 報告では「過去5年の回顧」「新時代の基本戦略」の部分で香港・マカオに触れ、「憲法と基本法が付与した香港・マカオに対する中央の全面統治権をしっかり掌握する」「香港・マカオに対する中央の全面統治権を守ることと特区の高度な自治権を保障することを結び付けなければならない」と述べた。報告では「香港独立」には触れなかったものの「特区政府と行政長官が法に基づき…国家の主権、安全、発展の利益を守る憲法責任を履行するのを支持する」と述べている。また経済発展については「香港・マカオが国家発展の大局に融合するのを支援する」として粤港澳大湾区や汎珠江デルタなどを重点に中国本土との協力を推進するほか、香港市民が中国本土で「国民待遇」を受けられる措置にも言及した。

 決議案では削除されたものの2回も全面統治権が明言されたことについて民主党の胡志偉・主席は「共産党はますます強硬路線で香港を統治し、本土との亀裂が深まる」との懸念を示したほか、憲法責任の履行という点は基本法23条に基づく立法を迫っているとの指摘もある。だが中央に近い消息筋によると、法曹界を含む多くの香港市民が「中央が香港で行使する権力は駐軍と外交に限られる」と誤解しており、これを払拭するためとみられる。

 『人民日報』海外版は22日付で報告の香港に関する部分を読み解く論説を掲載した。全面統治権が強調されたことについては「近年、香港の一部の過激勢力は植民地旗を掲げ、公に香港独立を鼓吹し、香港が憲法責任を履行する重要性と緊迫性が表れている。小中学校での中国史教育の強化から基本法23条に基づく立法までまだ長い道のりがある」と指摘した。また全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の范徐麗泰・常務委員はテレビのインタビューで「中央の全面統治権はかねて存在し、一貫して香港の高度な自治権を凌駕している。近年、自治権を無限に拡大しようとしたり、独立を主張する者が現れたため中央はあらためて立場を示す必要が出てきた」と解説した。

 民主派などの間ではこれより先に対香港政策の主管部門の人事に対して強硬化への懸念が持ち上がっていた。国務院は9月22日、中央人民政府駐香港特区連絡弁公室(中連弁)の張暁明・前主任を国務院香港マカオ弁公室主任に、マカオ中連弁の王志民・前主任を香港中連弁主任に任命したと発表した。

 民主派は張主任に対してタカ派のイメージを抱いている。林鄭月娥・行政長官は24日、張主任の人事は中央の路線が強硬化することを意味しているのかと聞かれた際、「タカ派やハト派に分けるのは世間のレッテルに過ぎない」と答え、中央の対香港政策は一貫しており1国2制度と基本法を堅持すると強調した。全国香港マカオ研究会の劉兆佳・副会長も「習主席と全人代の張徳江・委員長がすでに対香港政策と方針を決めており、香港マカオ弁公室も中連弁もその方針に従うだけ。担当官の人事で香港に影響が及ぶことはない」と解説した。

 北京の香港マカオ弁公室と香港の中連弁は中央の対香港政策の両輪であり、主任はともに部長級。以前、両弁公室はそれぞれの人脈を堅持していたが、香港マカオ弁公室副主任だった張氏が2012年に中連弁主任に就任したことで人材の相互乗り入れが始まり、中連弁法律部部長だった馮巍氏が13年に香港マカオ弁公室副主任に就任している。張主任が香港マカオ弁公室に戻ることは中央の対香港政策の方向性に大きな変化はないことを表している。

 王主任は1992年に中連弁の前身である新華社香港支社の弁公庁副主任として香港に赴任。98年に福建省に転任するが2006年に再び香港中連弁に戻り青年工作部の初代部長を務め、09年に副主任に昇格。15年に香港マカオ弁公室副主任、昨年、マカオ中連弁主任に就任した。今回の人事は青少年対策を強化するためともみられている。

外国勢力の干渉が再燃

 「セントラル占拠行動」の学生リーダーに実刑判決が下されて以来、外国勢力による非難攻勢が活発化している。米国の中国問題に関する連邦議会・行政府委員会(CECC)は10月5日、年度報告を発表した。年度報告では香港について「1国2制度が引き続き長期的に存在できるかどうかの問題はますます不透明になっている」と指摘。非親政府派議員6人が議員資格を喪失したことに触れ「香港は返還後、1国2制度の原則が削がれ、中央政府が香港の政治と法律事務に干渉し、1国2制度と基本法の保障の下での香港の自治権確保が破壊された」と述べたほか、デモ参加者に対する多くの起訴案件が政治的動機を帯びていると批判した。

 11日には英国保守党人権委員会のベネディクト・ロジャーズ副主席が、香港国際空港で入境を拒否された。ロジャーズ氏は8月に学生リーダー3人が収監された際、英国政府に介入を求める抗議活動を行っており、今回の来港で3人に面会するとみられていた。国務院外交部の華春瑩・報道官は同日の記者会見で、入境拒否は中央の指示によるものかを聞かれ「中央政府は香港の外交に関する事務を担っている。入境を認めるかどうかは中国の主権である」と答えたほか、ロジャーズ氏について「特区の内部事務、司法の独立に干渉する意図があるかどうかは本人がよく分かっている」と指摘した。

 さらに米英などの法曹界関係者12人が16日、学生リーダー3人の量刑見直しを批判する公開書簡を発表した。12人の連名による公開書簡は、3人の量刑見直しが一事不再理の原則に反することや公安条例が基本的権利を過度に制限しているなどと批判し、「裁判官は中央の圧力に直面しており、香港の司法制度と基本的自由は深刻な脅威に直面している」と述べている。12人には英国の元司法大臣や故・劉暁波氏の釈放を求めていた米国の人権弁護士ジャリッド・ジェンサー氏、カナダ、オーストラリアなどの人権弁護士らが含まれている。特区政府律政司はこれに対し「処理方法は従来と同じで決して一事不再理は存在しない。公開書簡は判決文で強調された彼らの暴力行為に関する罪という観点を完全に無視している」と反論。林鄭長官も「律政司がすでに全面的に回答し、その内容に同意する。これら署名者は本件を誤解しているか、香港の司法制度を理解していないことを反映している」とコメントした。

 占拠行動の収束以降、外国勢力の公然とした干渉は下火となっていたが、昨今また不穏な動きが出ている。中央が対香港政策を引き締めるとすれば、こうした動きに対する警戒の高まりを意味しているだろう。(2017年11月3日『香港ポスト』

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