香港・マカオ News
2017年 香港10大ニュース
2017年は香港が中国に返還されて20周年を迎え、7月1日前後の習近平・国家主席の来港では空前の警備体制が敷かれた。3月に行われた行政長官選挙では林鄭月娥・元政務長官が当選。10月の中国共産党大会(19大)では香港に対する中央の全面統治権が強調されるなど、ビッグイベントが相次いだ年だった。昨年の主なニュースを振り返る。
1. 返還20周年 習近平・国家主席が来港
習近平・国家主席が6月29日~7月1日に香港を視察した。1日には香港返還20周年記念大会・香港特区第5期政府就任式典を主宰し、重要講話を発表。習主席は今後より良く香港で1国2制度を実現するための意見として(1)「1国」と「2制度」の関係を正確に把握する(2)憲法と基本法に照らして事を行う(3)発展への集中を第1の任務とする(4)調和の取れた安定した社会環境を守る――の4つを提示した。
特に(1)では「国家の主権・安全に危害を与え、中央権力と基本法の権威に挑戦し、香港を利用して中国本土での破壊活動を進めるいかなる活動も絶対に容認できない」と述べ、外国勢力への警告や越えてはならない一線を示した。(2)では公職者と青少年に対する憲法と基本法の宣伝教育の強化を促し、(3)では、あらゆることを政治化しているため人為的に対立をつくり出して経済・社会の発展を阻んでいると批判し、「愛国愛港で1国2制度の方針と基本法を擁護しさえすれば、どんな政見や主張を持っていようとも中央は喜んで意思疎通を図る」と寛容姿勢を見せた。
1日に行われた民主派団体の民間人権陣線による7.1デモの参加者数は主催者発表で6万人余り、警察の推計ではピーク時で1万4500人、香港大学民意研究計画の推計では2万7000~3万5000人。警察の推計では過去最低となった。
2. 第5期行政長官選挙 林鄭月娥氏が当選
第5期行政長官選挙の投開票が3月26日に行われ、林鄭月娥(キャリー・ラム)前政務長官が当選した。7月1日から行政長官に就任、香港初の女性の行政長官となった。今回の行政長官選は選挙委員1194人で行われた。正式候補となるには選挙委員の推薦票150票以上が必要で、曽俊華(ジョン・ツァン)前財政長官が165票、胡国興・元裁判官が180票、林鄭氏が580票だった。投票(無記名)では曽氏が365票、林鄭氏が777票、胡氏が21票となり、林鄭氏が当選に必要な過半数(601票以上)を獲得。推薦票に約200票上積みされ、前回選挙での梁振英・前行政長官の689票を上回った。
林鄭氏を推薦した財界の選挙委員が投票時にどれだけ曽氏に流れるかが焦点だったが、林鄭氏の得票数は予想以上だった。全国香港マカオ研究会の劉兆佳・副会長は「前回選挙では梁振英陣営と唐英年陣営の競争で親政府派が分裂した。今回、林鄭氏は曽氏と民主派による挑戦に直面したものの親政府派の2大陣営を団結させた」と述べた。
民主建港協進連盟(民建連)の葉国謙氏は「前回選挙での唐氏と梁氏の争いの後4年余りも親政府派が内部分裂を引きずった教訓から、中央は早期に林鄭氏への支持を表明した」との見方を示した。さらに曽氏は行政長官の4大条件の1つである中央の信任を得られないとのシグナルによって林鄭氏の圧勝がもたらされたといえる。
林鄭氏は当選後の記者会見で「社会の亀裂修復と閉塞状況からの脱却が最初の任務」と表明。行政会議メンバーや局長に民主派関係者を起用するなどで社会の団結を目指した。
3. 中国共産党第19回大会 中央の全面統治権を強調
中国共産党第19回全国代表大会が開幕した10月18日、習近平・総書記が行った報告では香港について中央の全面統治権が強調された。習総書記は「憲法と基本法が付与した香港・マカオに対する中央の全面統治権をしっかり掌握する」「香港・マカオに対する中央の全面統治権を守ることと特区の高度な自治権を保障することを結び付けなければならない」「特区政府と行政長官が法に基づき…国家の主権、安全、発展の利益を守る憲法責任を履行するのを支持する」などと述べた。
採択された報告決議では削除されたものの、2回も全面統治権に言及したことに対し民主党の胡志偉・主席は「共産党は引き続き強硬路線で香港を統治し、中国本土との亀裂が深まる」との懸念を示したほか、憲法責任の履行という点は基本法23条に基づく国家安全条例の制定を迫っているとの指摘もある。
だが全面統治権に触れたのは法曹界も含む多くの香港市民が「中央が香港で行使する権力は駐軍と外交に限られる」と誤解しており、それを払拭するためとみられる。全面統治権は2014年の1国2制度白書で初めて言及された。
4. 国歌法を香港にも適用 ブーイング問題で切迫感
全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は9月1日、「国歌法」を可決した。国歌の歪曲・侮辱に対する罰則強化や刑事責任追及などの改正を行い、10月1日から施行された。続いて11月4日、「香港・マカオ基本法付属文書3に含める全国的法律を増やす決定草案」を可決し、「国歌法」を香港にも適用することが決まった。
10月10日に旺角スタジアムで行われたアジアカップ予選の対マレーシア戦では、観客席で中国国歌に対するブーイングや「香港独立」の横断幕を掲げるなどの行為がみられた。2年前には香港で行われたワールドカップ予選で数試合続けてこうした観客のマナー違反があり、国際的に問題視されていた。
全人代常務委法制工作委員会国家法室の武増・主任は「国歌の尊厳を守ることが市民の言論の自由、表現の自由と対立するとの観点は間違い」と強調。法制工作委員会の張栄順・副主任も草案の説明で「近年、香港では国歌を尊重しない事件が発生し、1国2制度の原則と社会価値の限界に挑戦している」として香港での国歌法施行はこれら行為を防止・処理するために差し迫った重要性があると指摘。ただし基本法付属文書3に盛り込むことが採択されても、香港での現地立法が必要で、香港での適切な罰則などが制定される。
5. 占拠行動の学生リーダーに実刑 抗議デモが7.1デモ上回る
2014年の「セントラル占拠行動」の学生リーダーだった3人が特区政府本庁舎前の広場に突入した事件の量刑見直しで禁固刑が下された。
高等法院(高等裁判所)上訴庭が8月17日、新たに下した量刑は香港専上学生連会(学連)の周永康・元秘書長が禁固7カ月、香港衆志の羅冠聡・主席(学連前秘書長)が禁固8カ月、黄之鋒・秘書長(元学民思潮召集人)が禁固6カ月。先に下された社会奉仕令や執行猶予付きの量刑に不満を訴えた特区政府律政司の主張が認められた。
律政司側は「本件の規模は小さくなく、当日は100人が参加。警備員10人が負傷。突入過程は暴力がかかわり、3人は事前に計画していた。若者だからということで寛容的に処理すれば社会に間違ったシグナルを与える」として3人の即時収監を要求していた。
判決を受けて非親政府派は20日、抗議デモを開催。参加者は警察の推計でピーク時に2万2000人となり、7.1デモの1万4500人を上回った。これに対し林鄭月娥・行政長官は「言論、集会、デモの自由と権利は無制限ではない」と強調した。
6. 高速鉄道の「一地両検」 非親政府派が阻止の構え
特区政府は7月25日、広深港高速鉄路(広州―香港間高速鉄道)の香港側と中国本土側の出入境審査を1カ所で行う「一地両検」案を発表した。西九龍に建設中の駅は地下4フロアで、うち地下2階が入境フロア、地下3階が出境フロア。両フロアに香港側と本土側の税関・出入境管理所エリアが設置され、各自の法律に基づき出入境審査、税関手続き、検疫を行う。基本法20条の「香港特区は全国人民代表大会(全人代、国会に相当)、全人代常務委、中央政府が授ける他の権力を享受できる」に基づき全人代常務委に授権を求めるという。
特区政府は「一地両検」の実現に向け(1)香港と本土が「一地両検」の協力措置で合意(2)全人代常務委に協力措置の批准・確認と「一地両検」実施の授権を求める(3)現地立法――の3段階で推進する。
だが非親政府派は「基本法に本土の執法人員は香港で執法できないと明記されている」として、今後も基本法を修正せずに香港のある地区を中央に賃貸して本土の法律を施行する可能性があるとの懸念を示し、阻止する構えを見せている。
7. 粤港澳大湾区の発展計画 李克強・首相が言及
3月に開催された第12期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)第5回会議で李克強・首相が発表した政府活動報告では、広東省の珠江デルタと香港・マカオを合わせた「粤港澳大湾区都市群」の発展計画に触れたことが注目された。粤港澳大湾区は珠江デルタ9市と香港・マカオからなり、そのエリアの発展が国家の経済発展戦略に組み込まれたことを意味する。
4月には特区政府による粤港澳大湾区視察団が珠江西岸6市を訪問。参加した政府顧問は「中国の資本市場の発展にかかわる人民元国際化はオンショアとオフショアが歩調を合わせなければならず、これは1国2制度を備えた粤港澳大湾区だけにできること」と指摘し、香港が同エリアを主導することが提唱された。
7月1日に中央政府と広東省、香港、マカオの3地政府は粤港澳大湾区の建設推進に関する枠組み協定に調印。協力目標には香港の国際金融・海運・貿易の3大センターの地位を強化することや、オフショア人民元業務の世界的ハブの地位強化なども盛り込まれた。
8. 大学で「香港独立」宣揚 死者や遺族への嘲弄も
香港中文大学で9月4日、「香港独立」と書かれた横断幕が校内の複数の場所に掲げられているのが見つかった。大学側が即時撤去したが、5日朝には校内の広場に再び「香港独立」と書かれた横断幕が掲げられ、掲示板は「陥落拒絶、独立しかない」と書かれたチラシで埋め尽くされた。
ほかに香港大学などでも掲示板に「香港独立」を盛り込んだスローガンが掲げられ、特に教育大学では7日、特区政府教育局の蔡若蓮・副局長の息子が自殺したことが明らかになった直後、蔡副局長らを嘲弄する文字が張り出され、「道徳の一線を超えた恥ずべき行為」と非難された。
林鄭月娥・行政長官は記者会見で「言論の自由や学術討論の問題ではなく、組織的、体系的に『香港独立』の横断幕が掲げられていることが分かっている。中央と香港特区の関係を破壊している」と述べた。
9. 「台港民主連線」設立 独立派の結託を中央が警戒
台湾で6月、香港の民主化支援を掲げた「台湾国会関注香港民主連線」が設立された。台湾政党「時代力量」の黄国昌・主席が発起人となり同党や民進党の議員18人が参加。香港からも非親政府派の議員3人を含む政治家5人が設立会合に出席した。
これに対し国務院台湾事務弁公室の馬暁光・報道官は「台湾独立勢力と香港独立勢力が結託し1国2制度をかき乱し、香港の繁栄と安定を破壊することに断固反対する」と表明。香港の親政府派議員らも非難声明を発表した。
行政会議メンバーの黄国健氏は「香港独立派と台湾独立派が結びつき、中央の警戒を招いている。これが続けば中央が特区政府に基本法23条に基づく立法を早急に完了させるよう促すことは否定できない」との懸念を示した。
10. 4人が議員資格喪失 補選は2回に分けて実施
高等法院(高等裁判所)は7月14日、特区政府が2016年12月に起こした非親政府派議員4人の議員資格喪失を求める裁判で判決を下した。裁判官は劉小麗氏(無所属)、姚松炎氏(建築・測量・都市計画・緑地設計業界選出)、羅冠聡氏(香港衆志)、梁国雄氏(社会民主連線)の立法会での宣誓を無効と判断し、4人の議員資格喪失を宣言。「4人の宣誓方式は明らかに誠心誠意に宣誓する意思がなく、宣誓の原則に違反する」と説明した。
青年新政の2人に続く今回の4人の資格喪失で6議席の補欠選挙が行われることとなる。だが6議席の補選を同時に行えば親政府派が3議席を獲得する可能性があり、非親政府派は補選を2回に分けるため梁氏と劉氏が9月11日に上訴を申請。これを受けて選挙管理委員会は6議席のうち4議席の補欠選挙を18年3月11日に行うと発表した。
(2018年1月1日『香港ポスト』)